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浄土思想を今に伝える世界遺産 平泉

東北地方中部に位置する、岩手県の平泉町。ここは平安時代末期の11世紀末からおよそ90年にわたって、奥州藤原氏が拠点を置いた地です。この時代は多くの戦乱が続く中、人々の間に末法思想が広がり、誰もが心に平安を求めました。そんな中、阿弥陀如来を信仰し、西方極楽浄土への往生を願うという浄土思想が、身分の上下に関係なく人々に浸透していきました。平泉にはこの浄土思想に基づいた建築物や庭園が数多く残されており、その中でも5つの遺跡が世界遺産「平泉-仏国土を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群-」として登録されています。
ここではその5つの構成遺産の中から、奥州藤原氏初代が造営した金色堂で有名な中尊寺、浄土庭園が見事な毛越寺、平泉の人々の京都への憧れがうかがい知れる阿弥陀堂があった観自在王院跡についてご紹介します。


 

奥州藤原氏の眠る寺 中尊寺

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世界遺産「平泉-仏国土を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群-」の構成遺産1つ目は、中尊寺です。元は850年に比叡山延暦寺の高僧慈覚大師円仁によって開山された天台宗の寺院で、その後12世紀に奥州藤原氏の初代清衡が、東北での戦乱の戦没者を弔うこと、仏教思想を根付かせることを目的として伽藍を造営し、現代に伝わる様相となりました。多宝寺、大長寿院、金色堂と次々に完成させていき、国宝、重要文化財、国の特別史跡に指定されている価値あるものが多数含まれています。大長寿院は、のちに奥州藤原氏を滅ぼした源頼朝も感嘆し、これを模して鎌倉の永福寺を建てたと言われているほどです。
有名な金色堂は内外が金箔で飾られていて、その名の通り金色に輝く阿弥陀堂です。螺鈿や蒔絵など、平安時代の工芸技術の粋を結集して装飾され、内部には藤原氏の清衡、基衡、秀衡、泰衡の遺体が納められています。


 

この世の浄土が垣間見える 毛越寺

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構成遺産の2つ目は、中尊寺と同様慈覚大師円仁が850年に開山した毛越寺(もうつうじ)です。その後はやはり奥州藤原氏の二代目基衡、三代目秀衡が再興し、数々の伽藍を造営しました。塔やお堂は40以上、僧房は500以上あり、中尊寺を上回る規模の立派なものでしたが、度重なる火災で全て焼失してしまいました。そのため、現在の本堂は江戸時代に再築されたものとなっています。当時から残っている庭園と境内はそれぞれ特別名勝と特別史跡に指定されていて、これら2つの両方の指定を受けている遺跡は国内でも数例であり、毛越寺の文化的価値がうかがい知れます。
この庭園は、海岸を表す大泉が池と、小川を表す遣水が浄土を表現しているということで浄土庭園と言われていて、平安時代当時の様式がそのまま残っているため大変貴重なものとされています。


 

京都への憧れが表現された寺院 観自在王院跡

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毛越寺の隣にある観自在王院は、奥州藤原氏二代目の基衡の妻が建立したものですが、16世紀にはすでに焼失しています。現在残る観自在王院跡は20世紀に発掘調査と復元を施されて、史跡公園としてよみがえったものです。浄土庭園は毛越寺のものに比べて簡素なものですが、平安時代の庭園書である『作庭記』に記されている作法に忠実に造られていて、その遺構はほぼ完全な状態で残っているという文化価値の高いものです。2棟の阿弥陀堂には阿弥陀如来、観音、勢至菩薩の三体が安置されていて、その内壁には、石清水八幡や宇治平等院など、平泉に住む人々にとっては憧れだった京都の霊所がいくつも描かれていたと伝えられています。
今も毎年5月4日、基衡の妻の命日にあたる日には、その死を悼む「なき祭り」が行われていて、人々の心に信仰が浸透しているのがよくわかります。


 

さらなる追加登録を目指す 平泉の世界遺産

平泉の世界遺産を構成するのは、現在5つの遺跡です。これまでご紹介した中尊寺、毛越寺、観自在王院跡。そして藤原氏三代目秀衡が京都の宇治平等院を超えることを目指して造営した無量光院跡、平泉全体を見渡すことができる聖なる山・金鶏山が、残りの2遺跡です。
平泉に残る浄土思想を表現する遺跡の歴史・文化的価値は、他に類を見ないもので、世界的にも高く評価されています。このため平泉では、現在登録されているものの他にも関連する遺跡として、平泉の政庁とされている柳之御所遺跡、坂上田村麻呂が戦勝記念に祀った達谷窟、藤原氏の荘園だった骨寺村荘園遺跡、奥州の白鳥舘遺跡、長者ヶ原廃寺というものを挙げ、これらの追加登録を目指しています。
源頼朝によって奥州藤原氏が滅ぼされたのちも、現代まで残されてきた見事な浄土思想の遺跡を、ぜひ訪ねてみてはいかがでしょうか。

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